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副題で読み解く雑学的ブック・レビュー

帝国の条件―自由を育む秩序の原理

 橋本努さんの著作を取り上げるのは「自由に生きるとはどういうことか―戦後日本社会論」に次いで2度目だ。あのときぼくは、「本書で9.11やセカイ系について述べていないのはあえてそうしたのかな」と述べたのだが、本書ではまさに「9.11以降」がテーマ。なるほど、そういうことだったんだ。
 「善き帝国」とは何かを提示する、骨のある著作だ。骨があるが、新書でのときと同じく、「はじめに」で内容をかいつまんでくれているので、よきガイダンスとなっている。

 ちなみにやはりあのときぼくは、「創造としての自由」に可能性を見る態度に共感したのだった。
 本書の副題は、その「自由を育む秩序の原理」を述べるとうたっている。その上に成り立つのが、善き帝国。
 先に結論を書いておこう。
 自由を育む秩序とは、「超越的普遍性をもたない秩序」だ。善き帝国は、「全能人間」が「自生化主義」のもとで担うのだ。

 ぼくはふと、「創発」という言葉を思い浮かべていた。個々は自由に振舞いつつも、全体として秩序だった構造が形成される現象。
 そして本書は、抽象的には理解される「創発」現象を、具体的な政治システムとして構想し、そこに向けた心構えを説く書のように感じとれた。

 本書は、9.11以降のイデオロギーを整理した後、帝国とは何かを詳細に分析していく。

 現代の帝国は、19世紀帝国主義のそれとは様変わりしている。資本主義のフロンティアが消滅した現代において、帝国は境界を拡張する運動としてではなく、内生的な駆動因をもった世界秩序として現れる。
 内生的な駆動因とは、「命令」と「膨張」だ。それは、受容される層によって違った意味で駆動される。
 まず帝国内部の支配層にとっては、自らの命令権を基礎付けるとともに、市場戦略やメディア戦略による膨張として利用される。一方、被支配者層にとっては、命令は変幻自在な「構成的権力」ととらえられ、多極分散などの加速化によって膨張の原理を代替しようという形で利用される。

 さて、ポストモダニズムを象徴するものとして、無数の結節点がネットワーク的に連結しているリゾームという概念がある。
 リゾーム概念の現実社会における最良の現れは消費文化だが、最悪の現れはテロ組織だ。この指摘にはハッとさせられる。テロは、いわば裏の帝国現象なのだ。

 ところで、帝国の生成に抗してオルタナティブとなる政治運動に参加する反帝国運動は、それ自体が人的資本を高めるため、資本の新たな論理となる。反帝国運動でさえ、帝国に包摂される。
 これは見方によれば光明だ。ぼくたちは、このダイナミズムを通して、善き帝国を築く道筋とできる可能性がある。

 こうして帝国の動態をあきらかにした橋本さんは、次にその思想状況として、「ネオリベラリズム論」と「新保守主義論」を展開する。
 その上で、帝国の思想的基礎として、保守主義を深化させ、「拡張された共同性」「人生の深い意味」「文化の豊饒化」などを理念として掲げる「超保守主義」を提示する。

 そこで求められるのは、主体の「全能感」だ。各人が、自らの潜在的可能性を開花する意志を交換し、自由をエンパワメントすること。
 こうした「全能人間」の生成を目指す秩序こそ、「自生化主義」だ。自生的な成長を、作為的に生み出すこと。
 このときに正当化される権力は「転換的権力」だという。教師と生徒の間のそれのように、配慮からなる権力。

 橋本さんは最後に、トービン税など、具体的プランの提示まで行っている。9.11の痛みから生み出された、力のある書だ。

by 小橋昭彦 : 08年03月07日

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