小橋 昭彦 2020年1月5日

成功するためには、成功するまで続けること。
心の片隅にずっとひっかかっていた言葉、松下幸之助氏の言葉という。さすがは世界的企業を育て上げた経営の神様。

あたりまえのようでいて凡人にはできないのが、続けることだ。ぼくが今もこうしてものを書く立場にあるのは、若いころに毎日書き続けた結果で、その意味でぼくは若い日の自分に感謝している。
だから、人から文章なりデザインなりのコツを聞かれたら、書き(描き)続けること、そしてまずは書き(描き)終えること、と答える。後半は、いつか小説を書きたいと思いつつ結局書けていない、その一番の理由は、20代の頃に書き始めたものの書き終えられていない小説があるためという、自分への反省から加えている。
そしてあらためて冒頭の松下語録に戻ってみれば、その続きは「途中であきらめてやめてしまえば、それで失敗」であるのだとか。あきらめない限り、それは成功への途上だ。

京大のマナロ教授らが、継続する意欲を保つには、完成までの近さよりも、仕上げるまでの方法を知っているかどうかが大きいと論文で述べている。
学生らに作文の課題を与え、強制的に中断させる実験だ。その後再開させたとき、作文全体の構成について助言を受けていた学生の方が、そうでない学生より完成への意欲が高かった。たとえ残りがより長くても。

ヘミングウェイは、小説を書き続けるために、執筆を中断する際、切りのいいところではなく、次の展開を書きたいと思っているところで筆をおいたという。そこで教授らはこの「続きを知っている」ことが失敗を防ぐことを「ヘミングウェイ効果」と名付けている。

昨年の春には、慶應義塾大学の教授らが、こうした「根気」には腹側海馬と呼ばれる脳の部分が関係していて、ここの活動が抑制されていることが重要だと発見した。
腹側海馬は不安が高まると活動が活発になるところで、つまり、不安を抑制し安心していられることが、根気につながる。

考えてみれば、何かを続けるとき、それが何になるのか、やり遂げられるかと不安になるのは自然なこと。そんなとき、大丈夫だ自分はできると言いきかせる力を持っているかどうか。
少しの失敗に社会が不寛容な時代。あらためて根気とは、他者の評価がすぐ目に入る社会において、保ちづらいものなのかもしれない。

1 thought on “根気とヘミングウェイ効果

  1. ヘミングウェイ効果の命名は、京大の「エマニュエル・マナロ」教授らで、論文「The Hemingway effect: How failing to finish a task can have apositive effect on motivation」をご参照ください。

    日経サイエンス2019年6月号「うまく失敗する方法」も参考にしました。

    慶応義塾大学の発表は「「根気」(こんき)を生み出す脳内メカニズムの発見-粘り強さは海馬とセロトニンが制御する-」をご覧ください。

    なお、松下語録の出典は『人を活かす経営』(P220)です。

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