小橋 昭彦 2018年9月27日

やさしさについて考えるとき、思い出す名セリフがある。

レイモンド・チャンドラーの小説『プレイバック』に出てくる「タフでなければ生きて行けない。優しくなれなければ生きている資格がない」だ。
この言葉は、女性から「あなたのように強い人が、どうしてそんなにやさしくなれるの」と問われた主人公フィリップ・マーロウが返した言葉だった。

この問いへの回答になるかもしれない心理学からの報告がある。

他者のために尽くす性向を「利他性」という。
小田亮氏らが大学生の利他性について調べたところ、「私的自意識」の高い人ほど、利他的な性向が高かったという。
私的自意識というのは、自分の内面に注意を向けることを言う。普通に考えれば、世間体を意識する「公的自意識」が高いほど利他的になりそうな気がするけれど、そうではない。

どういうことだろう。
考えていて気づいたのは、自分が何者かを極めようとする思いは、強くないと持てないのではないかということ。周りからの評判を気にして流されるのは、易い。

強い人が、やさしい。やさしくあるためには、強くあらねばならない。
あらためて、フィリップ・マーロウの言葉をかみしめている。

1 thought on “強くなければやさしくなれない

  1. 引用した調査は、小田亮『利他学』を参照しました。

    レイモンド・チャンドラーは、新しく村上春樹訳『プレイバック』が出ましたが、該当部分の翻訳は少し変わっています。そのあたりのいきさつ、「ウワサの現場」にあります。

Leave a comment.

Your email address will not be published. Required fields are marked*